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新宿キャッツアイ

財布
ケータイ

定期券

メガネ
ジャケット
ベルト
iPod
MacBook
パスポートetc…

これらは、私がこれまでに失くした事のある物のごく一部です。
正確に言えば、「失くした物」と「盗まれた物」のごく一部です。
もっと正確に言えば、「失くした物」と「盗まれた物」と「失くしたのか盗まれたのかわからない物」のごく一部です。
これから私がする話は、「失くしたのか盗まれたのか断定は出来ないが、まず間違いなく盗まれたであろう物」の話となります。

2008年。池袋。
私は中高時代の友人数名と居酒屋で飲んでいました。男だけしかいなかったので2軒目に行こうともならず、そろそろ帰ろうかと話をしていると、若い女性2名が入店して来て、入り口付近の席に座りました。それを見ていた友人の1人が、「ジャンケンで負けた奴が自分のケータイ番号を渡しに行こう」と言い、卓上のナプキンの上にカバンから取り出したペンを置きました。

当時、ナンパなどした事がなかった私は、正直負けたら嫌だなあと思いながらも止むを得ずジャンケンをしましたが、案の定負けてしまい、私がケータイ番号を渡す事になりました。

友人達が会計を済ませている中、私だけ2人のいる席の前に立ち、恐る恐る自分のケータイ番号を書いたナプキンをテーブルの上に差し出しました。近くで見ると思ったよりもかなり強めのギャルであった2人は一旦会話を中断し、見るからに不愉快そうな表情でこちらを一瞥しましたが、特に何も言わず、ナプキンに触れる事もなく、すぐにまた会話を再開しました。

一週間後。
私は自宅の近所にあるモスバーガーで米国留学のための勉強をしていました。すると、急に知らない番号から電話が掛かってきました。
電話に出ると、やはり知らない女性だったのですが、「今新宿で飲んでるから今すぐに来い」と言われました。
私は、「多分電話を掛ける相手を間違っていますよ」と伝えました。
しかし向こうは、「はあ?間違ってねえよ。イチカワだろ?」と私の名前を言い当てました。

私はその時やっと相手が先週のギャルである事に気づき一瞬うろたえましたが、一方で「実は初ナンパが成功していたのでは」という妙な高揚感を覚え、相手に言われるがまま、すぐに新宿へ行く事にしました。とは言え、1人で行く度胸はさすがに無いので、先週一緒に飲んでいたアソウ君に事情を説明して、一緒に新宿に来てもらう事にしました。

アソウ君と新宿駅前で合流し、相手の指定してきたカラオケ店へ向かいました。緊張しながら部屋に入ると、確かに先週のギャルが2人そこに居ました。私に連絡をして来たと思しきリーダー格のギャルは私を見るなり、「マジで来たんだけど、ちょーウケる」と両手を叩いて笑いました。

女性とのコミュニケーションが不得手な私にとっては、この手のギャルとの絡みは特に苦手とする所であり、それが分かっていながら何故ここへ来てしまったのかと、私は少し後悔していました。しかし一方で、アソウ君の方はというと、昔からビジュアル系ロックバンドが好きで、その手のギャルへの対応にも慣れているらしく、困り果てている私を尻目に1人でギャル2人を相手にスムーズな軽口を交わしつつ、すぐに打ち解けて行きました。

最初は4人で普通にカラオケを歌っていましたが、1時間ほど経った所でリーダー格のギャルが急にテキーラのボトルを注文し、「カラオケは飽きたから、これが無くなるまでゲームしよう」と言いました。

ゲームの内容は、山手線ゲームをはじめとするいわゆる「飲みゲー」でしたが、そのギャル2人は我々が初めて聞くようなゲームもかなり知っていたため、ゲームで負けるのは大抵私とアソウ君であり、我々は物凄いスピードでテキーラショットを飲み続けました。その結果、私よりも酒に弱いアソウ君はすぐに酔い潰れてしまったので、仕方なく先にタクシーで家へ帰す事にしました。

今思えば、私もその時点でアソウ君と一緒に帰れば良かったのですが、私もかなり泥酔していた事もあって図らずもギャルとの飲みゲーを楽しみ始めていたので、私は1人部屋へ戻りました。

その後の展開は言わずもがな、圧倒的なゲーム巧者であるギャル2人による集中砲火を浴びた私はほぼ全てのゲームに負け続け、私の意識はすぐに忘却の彼方へと消え去って行きました。

数時間後。
私は薄暗い部屋の中で、うつ伏せの状態で目を覚ましました。そしてすぐに、私の目の前に「寝ゲロ」が広がっている事と、自分は今漫画喫茶のフラット席の中にいる事を認識しました。そしてとりあえず、部屋にあったティッシュでゲロを拭きながら(隠蔽しながら)、この漫喫にどうやって来たのか思い出そうとしましたが、当然何も覚えてはいませんでした。

そしてふと、嫌な予感がして慌ててポケットの中身を確認すると、財布もケータイもiPodも、全て失くなっている事に気付きました。

「どうやって帰ろうか。。」

ケータイで誰かに助けを求める事も出来ない状況で、私が思いついた唯一の方法は、「非常階段から逃げる」というものでした。私は息を殺しながら部屋を出ると、非常階段を探して歩き回りました。そしてすぐに非常口らしき扉を発見しましたが、それは受付のすぐ横にあり、その受付には店員が1人立っていました。

私は平静を装いながら受付へと歩いて行き、その店員に、「ちょっとケータイで電話したいので、外で電話しても良いですか?」と言って非常階段を指差すと、店員はそれを何も怪しむ事なくOKしました。私はゆっくりと非常口から外へ出て、扉が閉まった事を確認すると、一目散に階段を駆け下りました。

それまで万引きもした事がなかった優等生の私にとって、このようなワルを働くことは初めてであったので、異常なアドレナリンが湧き出てくるのを感じながら階段を駆け下り、その雑居ビルから飛び出しました。

外は、すでにうっすらと明るくなりつつありました。一銭も持っていない私は始発で帰る事も出来ないので、明治通り沿いを歩いて帰る事にしました。歩きながら、私の心に浮かんだのは、財布やケータイを盗んだ(であろう)ギャル2人への怒りよりも、ついさっき自分が働いた「初めてのワル」に対するある種の充足感でした。

二日酔いの頭痛すらもなんだか愉快に感じる、春のあけぼの。

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